アルツハイマー型認知症の勉強会に出席

はじめに

院長は、平成30年2月18日(日)、福岡で行われたアルツハイマー型認知症の勉強会に出席してきました。

Novartis Alzheimer's disease Symposium 九州

100人程度の比較的小さな集まり
演者の先生方は精神科の先生が多かった

という状況だったのですが、研究から臨床まで偏り無く、たくさんの分野からの講演がされていました。

勉強になったので、要旨だけ復習を兼ねて記載します。

なお、

お約束ですが

下記情報はいずれも直ちには「医学界の常識となった」とか「我が国における保険診療の適応となった」とか「明日から診療に活かされるべき知識である」とかいうことを示しません
これらの情報は公表後に論証過程を検証され、あるものはより科学的根拠の高い研究データに上書きされ、あるものは人類の新たな知見とされていく、といった過程をたどっていくことになります。

・論文としてアクセプト・出版された
・学会で発表された
・研究会で発表された
・インターネット上で紹介された
・地上波テレビの話題になった
・雑誌に取り上げられた
・電車のつり革広告に掲載された
・新聞記事になった
・近所のおばさんが言っていた

今回の記事は、研究会での発表内容のうち、筆者が興味深いと思った内容を書き出したものであることに御留意下さい。

疫学研究

福岡県久山町の疫学

前提として、有病率の規定因子は発症率と生存期間。
14年前と比較して、AD の有病率が増えている。
疫学研究なので、当然診断基準は変えていない。診断技術が上がっているのなら早期発見が増えるので、発症年齢が若くなるはず。しかし、発症年齢は変わっていない。従って、診断技術の向上によって AD の有病率が増えているのではない。AD発症後の生存期間が長くなっているために AD の有病率が増えているように見えている。
明らかにADについては早期死亡が減っている。

防御因子
1988年の健常者を15-17年追跡
メタ解析では、ADについては DM 群が対健常群で 1.6倍発症
メタ解析にて、認知症の発症がなくても、DMがあると海馬は萎縮している。
空腹時血糖は有意所見無し。2時間血糖が認知症のハザード比を上げる。

GA/HbA1c (ratio) は血糖変動と相関する。
ADのハザード比をみることができるのは GA/HbA1c (ratio)
AD の発症リスクは高血糖と言うよりは、血糖の変動では?

血圧も変動が強いとAD・血管性認知症のハザード比が上がる
一方、ADについては収縮期血圧だけみてもハザード比の上昇を説明できない
血管性認知症は大きく上がる
機序は以下を考えるがまだ証明段階

AD については BPV -> alteration in brain structure -> dementia
or
alteration -> BPV -> dementia

1960年頃までは喫煙がADの防御因子と思われていた
現代ではそう考える人はさすがにいないであろう

久山町のデータでは、多変量調整の結果、ADの発症リスクは
吸わない - やめた - 吸ってる =  1.0 - 1.6 - 2.0

多変量調整の結果、AD の発症リスクは運動習慣がある群では 0.59倍となる。
ただし、激しい運動をする人は逆に早く亡くなる傾向あり。
20-30分程度の軽度から中等度のものがリスク軽減に寄与

食事については全認知症の発症リスク
野菜多め、乳製品多め、米・酒少なめのように読む

歯の残数が多い方が認知症にはなりにくい

なぜ欧米では認知症は減少傾向で、日本では増えているのだろうか?
胃瘻など、過剰医療傾向のため?

熊本県荒尾市における認知症コホート研究

日本疫学会の研究デザインの解説
エビデンスレベルの小さい順に、
横断研究 -> コホート研究 -> ランダム化比較試験
エビデンスピラミッド も紹介される。

「AMED で、熊本でも久山町研究みたいなことをすることにした」という紹介段階のお話

認知症と自動車運転

介護保険法5-2の認知症の診断基準: 生活障害の定義あり

65歳以上が3300万人。このうち半分が免許を持っている。

そもそも法改正前から認知症は免許の取り消し事由である。
MCI の診断であれば、6ヶ月毎に診断書の提出が必要となる。

なお、薬剤の添付文書の関係上、認知症の薬剤を投薬するなら運転禁止が前提となってしまう

疫学上、FTDはADの10倍以上事故を起こしやすい

認知症とひとくくりにして運転の可否を判断している現状が適切かどうかは、今後の議題となり得る

認知症の基礎研究

microglia

精神疾患は回路の異常として捉えられてきた
しかし、回路を壊す物理的な機序についても考えていくべきである

ミノサイクリンは動物実験状態だが、microglia の活性抑制剤。
動物実験で Sc に効いた。

ドネペジルは microglia の活性を阻害した (in vitro)
microglia 関連の cytokines として、 TNFα など

せん妄の免疫炎症仮説
microglia の過剰活性化によるのではという仮説だけの論文がなんと Lancet に載った

急性ストレスでも microglia は増えない
ただし、TNF-α が増えている。
microglia の TNF-α関連の m-RNA が増えている
ストレス形成に microglia は関与しているだろう

動物実験レベルでは ストレス-> microglia -> ワーキングメモリの障害

糖尿病モデルマウスでは microglia が海馬・皮質で増加している。
長寿モデルは酸化ストレスへ耐性あり。microglia の活性化を認めない。

FTD と tau

iPS 細胞研究所

FTD の臨床病型と病理の関係と原因遺伝子

FTLD における 4 repeat tau の病的意義
4 repeat tau は凝集しやすい

FTLD-tau 患者 iPS 細胞の遺伝子修復

FTLD-tau 神経細胞は、細胞内に tau oligomer が蓄積されているし、細胞外に tau oligomer が放出される

FTLD-tau 神経細胞は神経興奮性亢進を呈する

認知症疾患医療センターの役割

沖縄 認知症疾患医療センター 基幹型

離島、退役米軍人の介護保険料不払いなど、沖縄ならではの問題がある。
疾患医療センターはかなり増えてきて、認知症診療は充実しつつあるが、みている医師が少なく負担が偏在している面もある。

認知症疾患医療センター 地域型

福岡市の高齢化は全国平均の10年遅れている。
従って、恵まれた状況で対応できている。

まとめ

どの講演も大変興味深く聴かせて頂きました。

中でも、4.1 microglia の基礎研究は、短い時間の中で導入からまとめまで完璧にされていて素晴らしかったです。
脳内の免疫担当細胞が精神疾患に及ぼす影響を研究されていることで、新聞等一般メディアにもよく登場される九大精神科の基礎研究部門からの講演でした。さすがです!!

最後になりましたが、今回は製薬会社さんの「主催」の会だったのですが、薬剤情報の提供等が一切無い、本当に営利色が無い集まりとなっていました。このような場での勉強の機会を与えて頂いたことに感謝しております。

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