認知症(もの忘れ外来)・軽度認知障害

認知症(もの忘れ外来)・軽度認知障害

本ページのまとめ

・軽度認知障害の場合

生活習慣病のコントロールを行い、認知症への進行を抑制する。
同時に不適切な生活習慣 (喫煙や過度の飲酒) の是正も必要

・認知症の場合

① まず初めに完治可能な認知症を見逃さない。
② 脳血流解析システムの導入など「従来の診療所水準を超えた」診療体制により、診断を行う。
③ アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など変性疾患の場合は、進行抑制効果と、家族の介護負担の軽減を重視した診療を行っていく。

軽度認知障害

もの忘れがなくても軽度認知障害と診断することがある

軽度認知障害 (= MCI) は、「認知機能が認知症と言えるほどまで低下してはいないが、まったく健常とも言えない」という状態です。一般の方には認知症の前段階と覚えていただくと良いかと思います。
具体的には次により診断します。
① 記憶障害: 新しい事柄を覚えるのが苦手になった
② 注意障害: 注意散漫となった。集中力が無くなった。
③ 思考の障害: 論理的に物事を解決することができなくなった。
④ 言語障害: 聞いたり読んだりする言葉が分からなくなった。あるいは考えていることを言語にできなくなった。
⑤ 視空間機能障害: 道に迷うなど、空間を正しく認識することが難しくなった。
⑥ 脳機能のテストで遂行能力の低下がある。
( ①〜⑤ のうちの少なくとも1つが2週間以上続く) + ⑥ = 軽度認知障害
(ただし、認知症や器質的健忘症候群、せん妄、脳炎後症候群、脳振盪後症候群、薬剤性認知障害を除外すること)
(ICD-10 の診断基準の場合)

軽度認知障害の将来予測

統計学的には年間5%〜15%程度の MCI 状態の人が認知症へ移行 (convert と言います) します。
一方、 年間16%〜41% 程度の人は MCI 状態から健常状態へ移行(revert と言います)します。
※ Mitchell AJ, Shiri-Feshki M. Rate of progression of mild cognitive impairment to dementia -- meta-analysis of 41 rebust inception cohort studies. Acta Psychiatr Scand. 2009:119(4):252-265
※ Roberts R, Knopman DS. Classification and epidemiology of MCI. Clin Geriatr Med. 2013:29(4):753-772

軽度認知障害の方にできること - 認知症への移行を予防するためには

前提として、軽度認知障害は現時点でこの国では病気とはされていません。

しかしながら、上記のように軽度認知障害の方は認知症へ移行してしまう可能性が一般人口より高く、これを予防することが重要です。
現代では、軽度認知障害から認知症への進行を予防する方法が確立されてきています。

強い科学的根拠
・生活習慣病のうち、高血圧症・脂質異常症・糖尿病の治療を適切に行う。
・適度な運動を続ける。


弱い科学的根拠
・地中海式ダイエット
・ココア摂取

研究の結果、効果なし
・非ステロイド系抗炎症薬 (NSAIDs)
・ビタミンE療法


ちなみによくある質問なのですが、認知症の薬を軽度認知障害の方に使うべきかについて、現時点での科学的根拠を持った知識は以下となっています。
強い科学的根拠
・コリンエステラーゼ阻害薬は認知機能を改善する。ただし、認知症への進行を抑制するとまでは言えない。
・メマンチンは認知症への進行を抑制するとは言えない。
* Doody RS, et al. Donepezil treatment of patients with MCI: a 48-week randomized, placebo-controlled trial. Neurology. 2009:72(18):1555-1561.
* Russ TC, et al. Cholinesterase inhibitors for mild cognitive impairment: Cochrane Database Syst Rev. 2012;(9):CD009132.
* Tricco AC, et al. Efficacy and safety of cognitive enhancers for patients with mild cognitive impairment: a systematic review and meta-analysis. CMAJ.2013:185:1393-1401

まとめますと、現時点での人類の知識としては、軽度認知障害から認知症への移行を防止するためには、生活習慣病のコントロールと適度な運動が最も重要ということになります。

軽度認知障害の当院での診療

実務上は、受診者は認知症を心配されて来院されることがほとんどです。
よって、認知症外来の手順に従って血液検査や画像検査も行い、結果として「現在のところ認知症とまでは言えない。ただし軽度認知障害ということはできる。」と説明することとなります。
軽度認知障害と診断した場合、認知症への移行を抑制することを第一に治療していきます。具体的には
・生活習慣病 (高血圧症・脂質異常症・糖尿病)を検索し、存在すれば治療する。
・運動の指導
・不適切な生活習慣 (喫煙・過度な飲酒など) についての指導
を行うこととなります。
また、基本的には毎月定期受診していただくようにします。認知症へ移行した場合に、できるだけ早期に発見して治療介入した方がその後の治療効果 (進行をゆっくりにする)を最大化できるからです。
※ 認知症疾患診療ガイドライン2017, 日本神経学会

認知症 (もの忘れ外来)

認知症 = もの忘れ ではない

本邦では 「認知症外来 = もの忘れ外来」というイメージが先行しているので、当院でも「もの忘れ外来」と併記しています。
ただし、「認知症の初発症状は必ずしも、もの忘れに限らない」ことが統計学的に示されています。「以前はできていた○○ができなくなった」「注意力が無くなった」「通り慣れた道で迷うようになった」など、「従来とは違う」という症状は全て認知症を疑う理由になります。

認知症という言葉を改めて解説 - 一度正常に獲得された脳の機能が、徐々に失われていく病気

認知症の診断基準は、複数の機関から出されています。よく使われているのは下記3つです。
・ICD-10 による認知症の診断基準 (WHO-世界保健機関 による国際疾病分類)
・NIA-AA による診断基準 (加齢・アルツハイマー型認知症を研究する国際機関によるもの)
・DSM-5 による診断基準 (米国精神医学会によるもの)
これらは互いに矛盾するものではなく、まとめることができます。下記となります。
認知症はš一度正常に獲得された脳の機能が、徐々に失われていく病気

よく質問を受けるので注意していただきたい点として下記2点があります。

・記憶障害は必ずしも必要としない。šもの忘れが無くても認知症と診断されることがある
・šどの診断基準を見ても、画像所見(脳の萎縮)は必須ではない。脳の萎縮がなくても認知症と診断されることがある。(※)
※ 認知症外来で頭部CTを撮影したり、MRIを撮像したりするのは脳の萎縮を証明するためではありません。後述の別の理由によります。

認知症という言葉は総称

認知症という言葉は、果物という言葉と同じく総称です。内部に個々の疾患を含有する概念です。
認知症 (総称) 果物 (総称)
アルツハイマー型認知症 リンゴ
レビー小体型認知症 イチゴ
前頭側頭葉型認知症 バナナ
脳血管性認知症 パイナップル

どのタイプの認知症かによって治療が異なる

認知症と診断された場合、上記表のどのタイプの認知症であるかによって使える薬が変わってきます。なぜなら、
・そもそも脳内にたまってしまう異常物質が違う
・(従って)どのように脳が傷害されるのか、脳のどの部分から傷害されるのかが違う
・(従って)どのような症状が出現してくるのかが違う
からです。
※ 医学用語として、動詞は「傷」害する。傷害された状態が「障」害

例えばアルツハイマー型認知症では、

・アミロイドβ蛋白が蓄積する。その際に脳の神経細胞を破壊してしまう。
・記憶を司る海馬という部分や、言語を司る言語野という部分が傷害されやすい。
・よって記憶障害や言語障害が初発症状となりやすい。

一方で、レビー小体型認知症では、
・α-Synuclein が蓄積する。その際に脳の神経細胞を破壊してしまう。
・大脳新皮質から蓄積するグループ、脳幹から蓄積するグループ、大脳辺縁系から蓄積するグループなどに分かれる。
・従って、幻視が初発症状となったり、パ−キンソン症状が初発症状となったり、注意障害が初発症状となったりする。
となります。

病気が発生する機序や、出現する症状が違うわけですから、当然治療法も異なってきます。
認知症と診断した場合、どのタイプの認知症かを分類することが大切となります。

ちなみに、もの忘れ, 初発症状, 認知症をキーワードにあえて文章を作るなら

認知症の中で最も多いタイプがアルツハイマー型認知症であり、その初発症状はもの忘れであることが多い。
もの忘れ, 初発症状, 認知症をキーワードにあえて文章を作るなら上記は正しい文章です。

しかし、認知症のタイプ分けの前に重要なこと - 完治しうる認知症の検索

医師は患者さんの病気が何であるかを考える際、一般に疾患頻度の高い病気から考えていきます。例えば「喉が痛くて関節痛がする」という患者さんが来られれば、まずはカゼを、季節によってはインフルエンザウイルス感染を考えるわけであり、いきなり10万人に1人しかかからないような珍しい病気から考え始めるはずはないわけです。
ここで、認知症のうち最も多いのはアルツハイマー型認知症、次に多いのはレビー小体型認知症です。原則論にのっとればこれらの疾患から考えなければいけないのですが、実は認知症診療においてはこの原則を曲げなければなりません。なぜなら、
・他の内科疾患が原因で認知症を来している場合、その内科疾患を治療すれば認知症が完治しうる
・他の外科的疾患が原因で認知症を来している場合、その外科的疾患を治療すれば認知症が完治しうる
・服用している薬剤が原因で認知症を来している場合、その薬剤を変更することで認知症が完治しうる
(一方で)
・アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症といった変性疾患については完治させる治療法が現在のところ無い
という知見があるからです。
結論として、以下となります。
認知症外来で最も大事なことは、まず初めに外科手術や内科治療で完治する認知症を見逃さないことである。

具体的には、まずは下記の病気を検索します。

・薬剤誘発性の認知症
・意識障害 (せん妄)
・てんかん性認知症
・内科的疾患: 内分泌異常による認知症、感染症、アルコール性認知症、代謝性疾患
・外科的認知症: 正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍 ---(※)
これらの病気が見つかった場合は、まずはその病気の治療を行います。
※ 認知症外来で頭部CTを撮影したり、頭部MRIを撮像したりするのは、この段階で外科的認知症を検索するためです。
画像検査について

認知症外来で頭部CTを撮影したり、頭部MRIを撮像したりするのは、このような外科的認知症を検索するためです。

※ 治療可能な脳外科的な認知症例えば慢性硬膜下血腫,脳腫瘍,正常圧水頭症などを除外するために形態的画像検査 (CT/MRI)を実施することが望ましい。 (認知症疾患診療ガイドライン, 2017)

※ Filippi M, Agosta F, et al. EFNS task force: the use of euroimaging in the diagnosis of dementia. Eur J Neurol. 2012:19(12): e131-140

CT 「または」 MRI の使用が推奨されているため、当院では患者さんの経済的・時間的負担の少ない CT を使用する こととしています。


※ 下記の病気については他院での治療が必要ですので、紹介状を作成します。

水頭症
脳神経外科 (手術が考慮されます)

慢性硬膜下血腫
脳神経外科 (手術が考慮されます)

てんかん / てんかん性認知症
脳神経外科 あるいは 基幹病院の神経内科・精神科 (脳波計のある施設で加療される必要があります)

血管炎症候群
内分泌内科 (専門外です)

脳腫瘍・脊髄腫瘍
脳神経外科 あるいは 整形外科 (手術が考慮されます)

うつ病
精神科 あるいは 心療内科(専門外です)

アルコール依存症 / アルコール中毒
精神科 あるいは 心療内科(専門外です)


認知症のタイプ分け = 病型分類

上記で「完治可能な認知症」が否定された場合、次に認知症のタイプ分け (= 病名決定)がなされます。
臨床症状 (問診による)、画像所見、その他の検査所見を元に下記のように診断されます。
・アルツハイマー型認知症
・レビー小体型認知症
・前頭側頭葉型認知症
・脳血管性認知症
・クロイツフェルトヤコブ病
・他の神経変性疾患による認知症 (進行性核上性麻痺, 大脳皮質基底核症候群, ハンチントン舞踏病)
どのタイプの認知症かによって、治療内容 (使うべき薬, あるいは 使える薬) が大きく異なってきますので、代表的な疾患については別ページで改めて解説することとします。

当院での認知症の診療

① 初回受診時に、上記検査方針について説明を行い、詳細な問診・心理テスト・血液検査・画像検査を受けて頂きます。
② 2回目の受診時に診断に必要な情報が集まっており、病名を決定、治療導入できる方がほとんどです。(※)

※ アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症といった変性疾患の場合は、①進行抑制効果と②家族の介護負担の軽減 を重視した診療を行います。
最新版の認知症疾患診療ガイドラインに準拠した診療を行い、その上で、脳血流解析システムの導入など「従来の診療所水準を超えた」診療を心がけています。
※ 認知症疾患診療ガイドライン2017, 日本神経学会

担当医師

院長写真

認知症(もの忘れ外来)・軽度認知障害 については院長が担当します。

担当医のコメント

私は認知症の外来・研究の機会に恵まれ、同疾患(あるいは軽度認知障害の状態)の患者さんの診断・治療・病態の解明に携わってきました。

脳の研究はこの20年間で飛躍的に進歩しました。私が学生の頃には無かったタイプの治療薬も出現しています。また、アルツハイマー型認知症については、発症を予防する薬剤の開発も進められており、実用化は夢物語では無い段階となっています。

認知症は治療が無かった頃は「歳のせい」で済ませていて良かったかもしれません。しかし現在では治療法があるわけですから、正確な診断と治療を行わなければ「もったいない」疾患と考えるべきです。

また、認知症を発症した後でも、現在では患者さんに対して行える治療・社会的サポートが多々存在します。当院では、患者さんの適切治療の他にもう一つ、「家族の介護負担の軽減」という視点も重要視して治療しています。

進行抑制効果 (= 認知症の進行をゆっくりにする治療の効果) は、早期に認知症を発見した場合に最大化されることから、御心配の場合はできるだけお早めに受診されることをお勧めします。

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