時間帯予約制の説明

目次

まとめ

・本稿では、当院皮膚科で採用している「時間帯予約制」について説明します。
・時間帯予約制では、患者さんの無意味な待ち時間と、院内の混雑が減少します。
「順番取りのために早く来院」しても無意味です。患者さんにとって最も合理的な行動は、「予約時間帯内に受付をする」ことです。
・逆に、診療の開始時間は初めから全く約束しません。約束しているのは、診療の順番です。

制度導入の背景

受診者数の増加

新型コロナウイルス感染の拡大で多くの医療機関が受診者数の減少をみる中、当院ではおかげさまで好評を頂いており、本年になってから一貫して前年同月比140%以上の来院を頂いております。
ここで、本年になってから診療時間は増加させていませんので、何の対策も打たなかった場合は次のような不合理・不公平な事態を引き起こしていたであろうと推定できます。

思考停止して来院順序だけで診療の順序を決めている場合の不合理・不公平

前提

時間帯予約制を採らない場合、患者さんの診療順序は「来院した順番」によって決定されることになります。
この場合、患者さんにとって早く診療を終わらせるための最も合理的な行動は、「早く来院して並ぶ」ということになります。

しかしながらこの場合、次のような不合理を来します。

簡単に説明するため、例示します。条件は以下です。

・午後の来院数が49人
・1人当たりの診療時間は4分
・院内の混雑状況を診療所の外から把握できない状況下で、全ての患者さんが診療の終了時間を早くするために最も合理的に行動したものとする。従って、全ての患者さんが診療開始時間に受付に並んでいる。
・受付に必要な時間は1人あたり10秒
・医師は患者間を0秒で移動できるものと仮定
・受付から診療終了までの時間を計算し、「滞在時間」とする。

また、患者さんの滞在時間の総数を「滞在時間の累計」として計算します。これは、院内の混雑状況を示す指標となります。

結果

時間帯予約制-思考停止1

 

 

 

 

 

 

時間帯予約制-思考停止2

 

 

 

 

 

 

上記のように、受付順1番の人と49番の人は、受付時間は8分程度しか変わらないのに、院内の滞在時間は3時間以上異なることになります。
また、院内の混雑状況を示す指標である、「滞在時間の累計」は78時間以上になってしまいました。
患者さん1人あたりの平均滞在時間は、1時間36分10秒にもなっています(= 78:32:10 / 49)。

ここで問題となるのは、
・受付順1番の人は、実は順番取りのために実はもっと早くから並んでいたこと
・今回待たされた患者さんが次回にもっと早く診療を終えるために最も合理的な方法は、「もっと早く並ぶ」しかないこと
・14:00:00 の時点で院内に49人の患者さんがいることになり、感染予防対策として最悪な「密な状況」状況を作り出していること
・上記混雑は、「全ての患者さんが最も合理的に行動した場合」にむしろ最大化されてしまうこと
です。

なお、いったん患者さんを並ばせて「受付ノート」のようなものに記載させ、その後いったん帰宅してもらう制度を採用している医療機関があることも把握しています。しかし、院長はこれを不公平であると考えますので当院では採用しません。
そもそも当院では近隣の患者さんも遠くから受診に訪れる患者さんも同様に大切に扱いたいと考えますが、「受付ノート」制度では近隣の患者さんだけを不当に優遇することになるから、です。

従って、患者さんの来院時間が分散する仕組みが必要

上記のように、「受付時間により診療順序が決まる制度」では、患者さんの無意味な待ち時間と院内の混雑が増大するばかりです。
従って、患者さんの来院時間が分散する仕組みが必要です。
これを実現するために、次に示す制度を運用しています。

時間帯予約制の実際

それぞれの時間帯枠に複数の予約枠が存在

時間帯予約制1

 

 

 

 

 

 

 

 

時間帯予約制においては、各々の時間帯枠に複数の予約枠が存在します。
上記例では、15:00-15:30の時間帯に3人、15:30-16:00の時間帯にも3人の患者さんを診療することを予定(希望)しています。

予約時間帯にならないと診療は開始されません

時間帯予約制2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間帯予約制においては、予約時間帯にならないと診療は開始されません。

上記例では、確かにBさんはAさんよりは早く診療されます。(同じ予約時間帯枠のなかでは来院時間順に診療)
しかし、14:30-15:00の予約枠のDさんについては最も早く来院されているにもかかわらず、後から来院したAさん、Bさん、Cさんよりも後に診療されます。

ここで達成されたことは以下です。

・予約時間帯内に正しく来院された、Aさん、Bさん、Cさんからみると、早く並んだDさんに割り込まれませんでした。すなわち、「診療の順番の約束が守られた」ことになります。
・一方、早く並んでいたDさんは全くメリットがありませんでした。「早く来院して並んでもメリットがない」ため、次回からは予約時間帯内に受付をされるようになります。

以上のように、時間帯予約制においては、患者さんから「並ぶことで得られるメリット」を大部分奪います。これにより、順番取りの需要が大きく減少するため、
来院時間帯が分散 → 患者さんの待ち時間の総量が減少・院内の混雑の緩和 という効果が得られます。

思考停止の場合と同じ条件で、時間帯予約制を検証する

前提

上記「思考停止して来院順序だけで診療の順序を決めている場合」と同じ条件で、時間帯予約制を採用した場合の患者さんの待ち時間や院内の混雑状況を検証します。

今回は時間帯予約制を採用していますので、
・49人の患者さんの予約枠は7つの時間帯枠(14:00-14:30, 14:30-15:00, 15:00-15:30, ・・・, 17:00-17:30)に均等に分散されています。
・「全ての患者さんが診療の終了時間を早くするために最も合理的に行動」するという条件は同一ですが、「予約時間帯が来ないと診療が開始されない」という条件も併存するため、患者さんは予約時間帯の開始時間に並びます。(例: 14:30-15:00の予約時間帯の患者さん7人は14:30に並びます)
となります。

その他の条件は、全く一緒です。

結果

時間帯予約制の場合1

 

 

 

 

 

 

時間帯予約制の場合2

 

 

 

 

 

 

上記のように、1日を通して最大に発生した滞在時間は27分10秒となります。(制度導入前から2時間40分の短縮)
また、院内の混雑状況を示す指標である、「滞在時間の累計」は13時間以内に抑えられます。(制度導入前の1/6未満の数値です)
患者さん1人あたりの平均滞在時間は、15分30秒となっています(= 12:39:40 / 49)。(制度導入前から1時間20分の短縮)

これは、時間帯予約制という「来院時間を分散させるシステム」を導入している成果であるといえます。

診療の開始時間は約束しません

約束しているのは、診療の「順番」です

時間帯予約制において医療機関側から約束しているのは、診療の順番です
上記例では、「14時~14時30分までの間に受付をしてもらえれば、Dさん・Eさん・Fさんよりは早く診療します」とAさん・Bさん・Cさんに対して約束しています。

決して「14時~14時30分の期間に診療を開始します」とは約束していません。次の理由からです。

医科の保険診療において診療の開始時間の約束は不可能

上記例では新患のCさんの病状は診療を開始するまで不明です。
「しみが気になって来院、診察上確かにしみである。まずは内服薬で治療しましょう」という場合であれば、数分で診療が終了するでしょう。しかし、「シミが気になって来院、しかし診察上悪性腫瘍を疑う。生検が必要」ということになれば30分は必要です。

同様に、かかりつけの患者さんであっても病状が突然増悪しており、予想外に診療時間を必要とすることがあります。

以上の例に示すように、「次の患者さんにどれくらいの診療時間を必要とするか」は診療を始めてみるまでわかりません。予想外に時間がかかる場合は、当然に後続の患者さんをお待たせすることになります。

従って、診療の開始時間は初めから全く約束しません。(できません)

補足: 歯科との対比

医科と異なり、歯科においては保険診療であっても比較的診療の開始時間の約束が守られます。
が、これはそもそも目指しているものが違うからです。

目標としているものが違う

(歯科)
診療時間の遵守。今回時間内に治療できなかった部分は、次回また治療する。

(医科)
できるだけ早く治療する。少なくとも本日中に治療の道筋をつける。次回以降に順延するものは、検査結果を待ったり、治療効果を確認したりする部分に限る。

医科において、歯科のように時間厳守を目標とした場合に発生する弊害(例)

・まだ癌の取り残しがあるが、時間が来たので残りはまた来月とります。
・検査をしないと診断がつかないが、時間が来たのでまた来月検査をしましょう。今日は説明だけ。
・水虫の治療は両足とも行うべきだが、時間が来たので今日は右足だけ。

医科の診療は時間厳守とは馴染まないことがおわかりいただけるかと思います。

「時間帯予約制」と「思考停止した順番制」の対比

早く来て並んだ結果、患者さんにメリットが

時間帯予約制: ない
思考停止した順番制: ある

従って、患者さんが院内の滞在時間を減らすために最も合理的に行う行動は

時間帯予約制: 予約時間帯内に受付をする
思考停止した順番制: もっとはやく並ぶ

従って受付段階での混雑は

時間帯予約制: 分散する
思考停止した順番制: 受付開始時間に集中する

従って、患者さんが院内の滞在時間を減らすために最も合理的に行動した結果、院内の混雑は

時間帯予約制: 減少する
思考停止した順番制: 増大する

また、患者さんが院内の滞在時間を減らすために最も合理的に行動した結果、1人あたりの平均待ち時間は

時間帯予約制: 大きく減少する(上記検証済)
思考停止した順番制: 極端な話では前日の夜から並ぶことになるので大きく増大する

そもそも医療機関が患者さんに約束している内容は

時間帯予約制: 予約時間帯内に受付をしてもらえば、後続の時間帯の患者さんよりは先に診療します。
思考停止した順番制: 早く並んでもらえたら早く診療します。順番取り頑張ってください。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事