はじめに - なぜ外部の業者に頼まなかったのか

院長はクリニック開業にあたって、レセコン・電子カルテシステムをベンダーさんを入れずに自己導入しました。

理由は下記のような実績があったこと、

・コンピューター趣味の延長で数年前から自宅で導入、運用していた。
・さらにシステム全体を仮想化して Mac-Book-Pro に導入、まだ紙カルテの勤務先へ持ち込んでカルテ出力していた。

そして、

・上記のように自分で導入できる物に対して初期コスト 500〜700万円 + 月々のメンテナンス費用数万円 を支払う必要性を感じなかったこと
・電子カルテシステムとしての OpenDolphin が「記事の記載」「反復継続して行う作業においてデータを使い回す」といった電子カルテの基本理念に忠実であること。すなわち非常に使いやすいこと。
・患者さんの個人情報管理という観点から、レセコン・電子カルテシステムを利用する医師は「データがどこにあり、どのデータ通信を守れば個人情報が秘匿されるか」について熟知しておくべきであると考えていること。すなわち、ブラックボックスのシステムを導入することには躊躇したこと。

によります。

自己導入した場合のコストは

コンピューターの構成

この記事を参考にされる方の中には、これから御開業を考えておられる先生がいらっしゃると思います。そのような先生の最も興味のある事柄は、コストでしょう。私の場合は比較的コンピューターが好きなので現時点では高スペックなコンピューターで作成しましたので、以下のようになっています。(正直、オーバースペックです)

① ORCA + OpenDolphin サーバー (主サーバー)

OS: Linux-Ubuntu 16.04 LTS
CPU: i7-7700
storage: 1TB HDD
RAM: DDR4 16GB
※ サーバーなのでキーボード, マウスは不要です
※ サーバーなので ディスプレイは不要です。

② 診察室A のクライアントコンピューター

OS: Windows 10 Home 64bit
CPU: i7-7700
storage: 128GB SSD + 3TB HDD
RAM: DDR4 16GB
ワイヤレスキーボード + マウス
ディスプレイ

③ 診察室B のクライアントコンピューター

OS: Windows 10 Home 64bit
CPU: i7-7700
storage: 128GB SSD + 3TB HDD
RAM: DDR4 16GB
ワイヤレスキーボード + マウス
ディスプレイ

④ 受け付け用 クライアントコンピューター

OS: Windows 10 Home 64bit
CPU: i5-7400
storage: 1TB HDD
RAM: DDR4 16GB
ワイヤレスキーボード + マウス
ディスプレイ

⑤ ORCA + OpenDolphin サーバー (従サーバー)

OS: Linux-Ubuntu 16.04 LTS
CPU: i7-5400
storage: 1TB HDD
RAM: DDR4 16GB
※ サーバーなのでキーボード, マウスは不要です
※ サーバーなので ディスプレイは不要です。

⑥ 附帯する物

インターネット回線
院内有線LAN工事
ルーター
HUB

初期コストまとめ

開業前からどんぶり勘定のような記載で申し訳ないのですが、70万円は超えません。

当院の場合は 受け付け用にさらに1台 + 院長室にも1台 の②構成の PC を増やす可能性が高いですが、その場合でも80万円は超えないでしょう。

ちなみに最小構成は、①+②+⑥ となります。上記スペックで構成しても30万円以下で実現できるでしょう。

ランニングコスト

月々かかる費用としては以下が挙げられます。

インターネット回線費用 (NTT 光回線 + プロバイダー費用)
電気代

※ メンテナンス代がかからない = 自己責任でデータを保護する です。念のためですが。

ORCA, OpenDolphin の紹介

ORCA: 日医標準レセプトソフト(日レセ)

正確には、

医療現場のICT化を推進するORCAプロジェクト

というプロジェクトが日本医師会内に存在し、そのプロジェクトの一環として提供される

日本の医療現場の為の医事会計ソフト

が、日医標準レセプトソフト (略称: 日レセ)  です。しかし現場では以下のように使われることが多いでしょう。
日医標準レセプトソフト= 日レセ = ORCA
日医標準レセプトソフトは、Linux-Ubuntu 上で動作するように作成されており、オープンソース方式で公開されています。すなわち、無料で使用できます。
なお、

日医標準レセプトソフト(日レセ)は皆様方の支持を得て着実に普及し、現在約15,000医療機関で利用され、レセプトコンピュータ(以下レセコン)の市場で国内第3位のシェアとなるに至りました。医療現場の皆様からのフィードバックを積極的に取り入れ、日々進化しつづけています。

と、導入実績が非常に多いようです。
余談ですが、医師会の会費が、会員の眼に見える形で会員に還元されているものでして、稀有で有益な事例と考えますが、論文にするのは難しいでしょうか。

OpenDolphin

OpenDolphin は、ライフサイエンスコンピューティング(株)様内のオープンドルフィン・ラボ様が公開されているオープンソースの電子カルテシステムです。

OpenDolphinはオープンソースの電子カルテです。Windows、Mac、Linux で動き、日医標準レセプトORCAと連携します。またiPhone/iPad アプリもあります。

開発の経緯としては、2001年に

経済産業省の公募事業に採択された案件(通称ドルフィンプロジェクト)で開発開始

とされています。
サーバーは Ubuntu-Linux 上で動作することを基本に設計されています。
クライアントについては、Java さえ動けば Mac, Windows, Linux のいずれでも動作可能です。
iOS アプリは Java とは無関係に別途開発された物です。
特筆すべき点として、
・そもそも「文字情報を記載して読み返す。再利用する。」という電子カルテに必要な基本システムが充実している。
・ORCA と連携している。患者情報を ORCA から読み取る。行った医療行為 (2号用紙の右欄) を ORCA に送信できる。
・真正性、見読性及び保存性の確保という、電子カルテの3原則が守られている。
が挙げられます。

法的に保存義務のある文書等の電子保存の要件として、真正性、見読性及び保存性の確保の3つの基準が示されている。それらの要件に対する対応は運用面と技術面の両方で行う必要がある。

このような素晴らしいソフトウェアをオープンソースで無償公開して下さっているライフサイエンスコンピューティング(株)様に感謝しながら利用しています。

この記事を書く理由

2014年に手探りの状態で ORCA/OpenDolphin システムを作成しようとしたのですが、以下の点に困りました。

・インターネット上の情報にありがちな事柄として

・・情報そのものは豊富である。
・・しかし、現在の Java 環境では実行できないものなど古い情報と、新しい情報が混在している。
・・全体像を把握していない状態では、サーバーの導入に関する情報なのか、クライアントの導入に関する情報なのか、など混乱する要素が多い。

また、全体像を把握していなかったので、

・(基本設計通りに Ubuntu にサーバーを導入すれば簡単にできるのに) Windows に OpenDolphin サーバーを立てる方法を時間をかけて探してしまった。

というミスも犯したりしてしまいました。


さらに、現在では OpenDolphin を解説する書籍も技術評論社様から出版されています。全体像をつかむために非常に良い本ですし、読んでいて「こんな機能もあったのか!」と気づかせてくれる点もあります。

無料電子カルテ OpenDolphinパーフェクトガイド

しかしながら、2016年3月の発売であり2年経過した現在ではこの本の記載通りにコマンドを打ってもシステムの導入ができません。例えば、
・現在ではPostgreSQL のバージョンが上がっているのでコマンドの変更が必要ですが、(紙の書籍なので当然)対応されていません。
・Java のバージョンが上がっているので、ORCA のクライアントは新しい物を使用する必要がありますが、(紙の書籍なので当然)古いバージョンのクライアントの URL に誘導されます。

目的

本投稿では、ORCA / OpenDolphin を導入したい、あるいは試してみたいという方々のために
・まずは全体像を把握する
・コマンドをコピーペーストするだけで実行環境を作成できる
ことを目標に、下記を解説します。

全体像の把握

実は登場するコンピューターの種類は 4つ しかありません。(そして、後述のように2台にまとまります)
・ORCA: 日医標準レセプトソフト(日レセ)サーバー
・OpenDolphin サーバー
・ORCA 用クライアントパソコン
・OpenDolphin 用クライアントパソコン
最終的に次の図のようになるように構成していきます。
レセコン電子カルテシステム説明17

ORCA: 日医標準レセプトソフト(日レセ)サーバー = レセコン本体

ORCA サーバーは Ubuntu 上で動作することを基本設計されています。レセコン本体です。

データベースが主体であり、院内に1台あればシステム自体は動きます。

以下のデータを持ちます。

・患者情報

・・患者の氏名・住所・保険情報・病名 といった、カルテ1号用紙に記載する内容
・・患者に「いつ」「どんな」医療行為を行ったかという、保険請求に関する内容

・ある医療行為の保険点数がいくらか、ある薬剤の薬価がいくらか、薬剤の相互作用情報、といった一般論で語られる全国共通の情報

個人情報の塊であり、紙カルテと同じ強度で守らなければなりません。一度設定しまえばディスプレイやキーボード・マウスは不要ですので、鍵のかかる入退室記録がとれる部屋に設置します。

データベースへの書き込み、読み出しは後述のクライアントパソコンから行います。

OpenDolphin サーバー = 電子カルテサーバー

OpenDolphin サーバーは Ubuntu 上で動作することを基本設計されています。電子カルテサーバーです。

データベースが主体であり、院内に1台あればシステム自体は動きます。

以下のデータを持ちます。

・カルテ2号用紙の記載

・・2号用紙の SOAP 記録
・・2号用紙の右欄記録

個人情報の塊であり、紙カルテと同じ強度で守らなければなりません。一度設定しまえばディスプレイやキーボード・マウスは不要ですので、鍵のかかる入退室記録がとれる部屋に設置します。

データベースへの書き込み、読み出しは後述のクライアントパソコンから行います。

ORCA 用クライアントパソコン

ORCA サーバーは、ディスプレイやマウスやキーボードは取り外して、鍵のかかる部屋に設置されています。患者情報はこのサーバーに保存されています。このため、普段の下記業務は、クライアントパソコンから LAN 経由でこれらのサーバーに接続することで行います。

・患者情報の登録
・受診受付
・日次請求業務
・月次請求業務

ORCA 用クライアントパソコンは、通常受付に設置されます。同一患者に対して同時処理が行われないようになっていますので、複数台あってもかまいません。

クライアントプログラムは Java 上で動作します。従って、クライアントパソコンは Windows, Mac, Linux どれでも構いません。

なお、ORCA 用クライアントパソコンには患者情報が残りませんが、ORCA サーバーへの接続 ID/password を自動保存するオプションがありますので注意が必要です。個人用途のコンピューターと同じ強度 (OS へのログインの際のパスワード保護 / storage の暗号化) を推奨します。

OpenDolphin 用クライアントパソコン

OpenDolphin サーバーは、ディスプレイやマウスやキーボードは取り外して、鍵のかかる部屋に設置されています。カルテ記載はこのサーバーに保存されています。従って、普段の下記業務は、クライアントパソコンから LAN 経由でこれらのサーバーに接続することで行います。

・カルテ2号用紙への SOAP 記載・閲覧・再利用
・カルテ2号用紙右欄への記載・閲覧・再利用 (薬剤投与、生体検査オーダー、放射線検査オーダー、病名登録)
・生体検査データの取りこみ・閲覧・グラフ化

OpenDolphin 用クライアントパソコンは、通常診察室に設置されます。同一患者に対して同時処理が行われないようになっていますので、複数台あってもかまいません。

クライアントプログラムは Java 上で動作します。従って、クライアントパソコンは Windows, Mac, Linux どれでも構いません。

なお、OpenDolphin 用クライアントパソコンには患者情報が残りません。しかし、カルテ添付情報 (紹介状をスキャンした物や画像を取りこんだ物など)をローカルに保存する機能があるので注意が必要です。個人用途のコンピューターと同じ強度 (OS へのログインの際のパスワード保護 / storage の暗号化) を推奨します。

ここで、OpenDolphin が ORCA と連携している為に以下の特長があります。

・OpenDolphin サーバーは、患者の氏名・住所・保険情報といった 1号用紙情報 は、ORCA に問い合わせて送ってもらっている。(逆に、OpenDolphin 単独では患者カルテを作成できない)
・2号用紙の右欄記録は、レセコン上の医療行為として作成される。(逆に言うと、薬を処方する時も、放射線検査オーダーを出すときも、病名をつけるときも、生体検査をオーダーするときも全て ORCA サーバーに問い合わせている。)
・2号用紙の右欄記録は、ORCA サーバーへ送られる。従って、医師が習熟すると診察終了とともに請求業務に移れるようになる。(医療事務職員がカルテを読み解いて、保険請求上の医療行為に変換するという作業が自動化される。)

サーバーもクライアントもまとめられる

サーバー編

上記で、ORCA サーバーも OpenDolphin サーバーも Ubuntu 上で動作することを説明しました。
そして、この2つのサーバーは (疎ですが) 連携して動作することを説明しました。
この2つのサーバーは、物理的に違うコンピューター上で動作させるべきでしょうか?

実は業務の継続性を考えると、1つのコンピューター上にまとめるのが良いという結論になります。
コンピューターが物理的に壊れたときのためのリスクヘッジは、以下のように同じ役割のコンピューターをもう一つ用意しておくことで行うべきです。


以下の2台のコンピューターが存在する
・Ubuntu が動作しているコンピューター上で、ORCA サーバーと OpenDolphin サーバーが稼働している (主サーバー)

・Ubuntu が動作しているコンピューター上で、ORCA サーバーと OpenDolphin サーバーが主サーバーの故障に備えて待機している (従サーバー)

以下の2台のコンピューターが存在する
・Ubuntu が動作しているコンピューター上で ORCA サーバーが稼働している。
・Ubuntu が動作しているコンピューター上で OpenDolphin サーバーが稼働している。

上記では推奨例・非推奨例共に2台のコンピューターが稼働しています。導入にかかる費用やランニングコストは一緒です。
確認として、このシステムでは、ORCA サーバー・OpenDolphin サーバーの両方が稼働していないと業務が中断されてしまいます。

ここで、1台のコンピューターが今後1時間で故障する確率を 1/100 と仮定し、それぞれの場合に業務中断が起こる確率を計算してみます。

推奨例の場合
業務が中断されるのは主サーバーと従サーバーが同時に故障した場合です。
(1/100) * (1/100) = 1/10000 の確率で業務中断に陥ります。
非推奨例の場合
どちらのサーバーが故障しても業務中断に陥ります。
[今後1時間で業務が中断される]は、[今後1時間でORCAサーバーが故障しない、かつ、OpenDolphinサーバーも故障しない]の余事象です。
確率は 1- (99/100) * (99/100) = 1- 9801/10000 = 199/10000 となります。
比較すると
導入コストもランニングコストも一緒なのに、非推奨例では推奨例の約200倍も業務中断のリスクが高まることになってしまいます。
結論として、サーバーは1台にまとめ、余剰資金で同じシステムをさらに1セット用意しておくことが推奨されます。

クライアント編

上記で、ORCA クライアントも OpenDolphin クライアントも Java 上で動作することを説明しました。Java さえ動作するのであれば、OS は Windows でも Mac でも Linux でも良いことも説明しました。
それでは、1台の Windows 上で、ORCA クライアントも OpenDolphin クライアントも動作させることは可能でしょうか?
結論としては可能です。競合無く動きます。
ただし、サーバーの場合と違って、想定される使用者が異なりますので、1台だけで運用するというのは非現実的と思われます。

全体像をみながら日次業務を把握

実際に ORCA/OpenDolphin システムを利用した場合に、日次業務の中で各々のコンピューターがどのような挙動を行うのかを別記事で解説しました。

導入方法

以上で、全体像についての解説を終了とし、実際の導入方法を解説していきます。

が、長くなりましたので、別記事で行います。

Ubuntu のインストール

ORCA/OpenDolphin サーバー構築のため、まずは Ubuntu がインストールされたコンピューターを用意します。イメージファイルのダウンロードからメディア作成、インストール、初回起動までスクリーンショットを交えて解説します。

レセコン・電子カルテシステム自作についての記事一覧
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